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津地方裁判所 昭和31年(行)2号 判決

原告 中村達一

被告 三重県知事

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告の主張

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対してなした昭和三十一年一月六日第二三四号仮換地変更指定処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として

「原告は別紙目録記載の土地を所有するものであるが、被告は特別都市計画事業の桑名復興土地区画整理施行者として国道一号線幅員三十メートル西桑名小貝須線幅員二十二メートル拡張の必要上、右原告所有の土地に対し、昭和二十八年十一月三十日付で七の四ブロツク一番五十四坪の換地予定地指定をし、その後昭和三十一年一月六日第二三四号仮換地変更指定書をもつて右土地の仮換地を桑名市IIの五七ブロツク六番五十三坪と変更し、昭和三十一年一月十四日右仮換地変更指定書が原告の許に到達した。

しかしながら被告の右仮換地指定はその以前において各関係土地所有者に対し公平に犠牲を払わせる公正な換地案があつたのに拘らず、一部の者の策動があつたためか、右換地案を廃し原告及び訴外増田君治、同水谷文一、同服部英一、同岡田五八等に対してのみ犠牲を強い、訴外平野佐吉及び同伊藤文一郎に対しては単に奥行のみ三間削除し間口は全然削除せざるが如き偏頗不公平な処置であつた。これは公正であるべき換地処分としては認めることのできない違法な処分である。

仮りにそうでないとしても、土地区画整理法第九十八条第四項によれば仮換地の指定は仮換地の位置、地積並びに仮換地指定の効力発生の日を通知してなすべきであるに拘らず、昭和三十一年一月十四日原告の許に到達した右仮換地変更指定通知にはブロツク番号と地積のみが示されているに過ぎず位置を示す図面は添付されていない。しかして右通知書の裏面に「仮換地指定図は三重県桑名都市計画復興事務所に備付けてあるから閲覧のこと」との記載があるが被通知人たる原告には復興事務所に赴き閲覧する義務はないから通知書に位置を示すべき図面を添付しない限り法律に規定する位置を示したことにはならない。従つて右仮換地変更指定通知は法律の規定に反した違法のものである。

よつて被告のなした本件仮換地変更指定処分は違法であるからその取消を求めるため本訴請求に及んだ。」と述べ、被告の本案前の抗弁に対し、「仮換地変更指定通知書が昭和三十一年一月十四日原告に送達されたとしても、仮換地指定の一部変更が決定されたのが昭和二十八年十二月二十六日である以上、これは特別都市計画法(旧法)に基いて決定されたものであるから、訴願についても同法の適用を受け、本件訴の提起については訴願を経る必要はない。仮りに訴願を経ることを要するとしても、原告は昭和三十一年二月二十一日訴願を提起し、書類不備のためこれを訂正し昭和三十一年二月二十九日再度提出し目下訴願係属中である。右訴願に対する裁決が未だなされていないことは認める。」と述べた。

二、被告の答弁及び主張

被告指定代理人は、本案前の申立として、主文同旨の判決を求め、その理由として、「原告主張の仮換地変更指定処分は土地区画整理法第九十八条の規定に基く行政処分であるからこれに対して不服のある者は同法第百二十七条の規定により訴願をすることができることになつている。従つて右行政処分の違法を理由にその取消を求める本件訴は行政事件訴訟特例法第二条の適用があるものである。なんとなれば、被告が施行者としてなした土地区画整理事業は旧法である特別都市計画法第五条第一項に基いてなされたものであるが、これは土地区画整理法施行法第五条により土地区画整理法(新法)施行の日において同法第三条第四項の規定により施行される土地区画整理事業となり、被告は同事業を施行する者となつた。而して新法施行前になされた処分手続等の効力は、土地区画整理法施行法第六条の規定により、当然新法に移行されたことになり、従つて本件仮換地変更指定処分も土地区画整理法の適用を受けることになるからである。

しかるに原告は行政事件訴訟特例法第二条但書に該当すべき事由も存しないから訴願を経た後に本件訴を提起すべきであるに拘らず、訴願を経ずして出訴し、その後昭和三十一年二月二十一日建設大臣にあて訴願を提起したが、被告は右訴願が記載要件不備であつたため一旦これを原告に返戻し、更にこれが完備されて提出されたので昭和三十一年二月二十九日、これを受付け建設大臣に進達したが未だ裁決を経るに至つていない。よつて原告の本件訴は不適法として却下さるべきものである。」と述べ、

本案につき、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「(一)原告主張事実中、原告主張の別紙目録記載の土地が原告の所有であること(但し、桑名市大字桑名字二十八番五百六十六番の二宅地八坪五合一勺の地番は同所五百六十六番の十一である。)、被告が桑名復興土地区画整理事業の施行者であること、被告が右土地合計七十四坪五合に対する仮換地として五十四坪(予定地積、以下同じ)の仮換地指定処分をしたこと、その後被告は昭和二十八年十二月二十六日右仮換地指定処分を一部変更し、原告所有の右土地に対する仮換地として五十三坪を決定し、その指定位置をII~五七ブロツク六号と定め、昭和三十一年一月十四日その旨の仮換地変更指定通知を原告に送達したこと、右仮換地変更指定書に図面が添付されていないことは認めるがその余の事実を否認する。(二)原告は、右仮換地の変更は一部の者の策動によつて原告及び他の数名の者にのみ犠牲を強いる不公正なものに変更せられたから違法である旨主張するがそのようなことはない。すなわち、原告の右仮換地は従前の土地公簿面積七十四坪五合(間口約平均七間、奥行約十間)に対し変更後の仮換地は五十三坪で、間口平均約六間三分五厘、奥行約八間五分(変更前の仮換地指定では間口約五間九分、奥行約九間三分)となり、その減歩率は約二割八分(変更前の仮換地指定における減歩率は約二割七分)となつた。これに対し訴外平野佐吉は従前の土地二百三十五坪に対し仮換地は百八十一坪で間口平均約十間五分、奥行約十九間二分(変更前の仮換地指定では間口約九間三分、奥行約十九間二分)その減歩率約二割三分(変更前の仮換地指定における減歩率は約二割七分)であり、又訴外伊藤文一郎は従前の土地百四坪三合四勺に対し仮換地八十九坪で間口平均約四間八分、奥行約十九間(変更前の仮換地指定では間口約四間奥行約十九間)でありその減歩率は約一割四分(変更前の仮換地指定における減歩率は約二割七分)であるから、これ等を比較対照して見れば右訴外人等に対して特に有利にし、原告等に対し特に不利益な仮換地指定をしたことにならない。原告は仮換地指定変更の結果、坪数は変更前の仮換地よりも一坪を減じたが間口においては却つて約四分五厘を増加し、宅地の利用価値は変更前よりも増加し有利となつたものと認められるから、右訴外人等に比し原告に対する仮換地指定が不公平な変更とはいえない。(三)被告のなした仮換地変更指定書は、土地区画整理法第九十八条の規定によつてなしたものであるが、法令上右指定書に図面の添付を必要とする旨の規定はない。然し被告は仮換地変更指定の裏面に附記事項として図面は所轄事務所において閲覧するよう記載し、現に自由に閲覧を許して居り、原告もすでに図面の閲覧等により或は係員の説明によつて、現地の位置は充分知つているのである。又仮換地変更指定の効力発生の日の通知については、仮換地変更指定書の裏面に附記事項として、仮換地上に支障物件が存在しないときは通知の翌日から効力が発生し、支障物件があるときは右物件が移転又は撤去されたとき効力が発生する旨を記載してあるから、何等欠くるところはない。」と述べた。

三、立証〈省略〉

理由

別紙目録記載の土地(但し桑名市大字桑名字二十八番五百六十六番の二宅地八坪五合一勺の地番は同所五百六十六番の十一の誤記と認める。)が原告の所有であること、被告が桑名復興土地区画整理事業の施行者として原告所有の右土地に対し仮換地五十四坪の仮換地指定処分をし、その後昭和二十八年十二月二十六日右仮換地指定を一部変更し、右土地に対する仮換地を桑名市IIの五七ブロツク六番五十三坪と決定し、昭和三十一年一月十四日、その旨の仮換地変更指定書が原告に送達せられたことは、本件当事者間において争いのないところである。

そこで右仮換地変更指定処分の取消を求める本件訴が、行政事件訴訟特例法第二条に違反した不適法な訴である旨の被告の主張について案ずる。仮換地変更指定は一個の独立した行政処分であり且つ行政庁の意思表示であるから、その効力発生は到達主義によるべきものと解するのが相当である。被告が昭和二十八年十二月二十六日仮換地指定の一部を変更する旨決定したことは行政処分としては未だ内部的に成立したに止まり、昭和三十一年一月十四日原告にその旨の通知が送達せられた時に始めて行政処分として効力を発生したものというべきである。しかして土地区画整理法施行法第五条第六条によれば、土地区画整理法施行の際被告が特別都市計画法第五条第一項の土地区画整理として施行した本件区画整理事業は土地区画整理法の施行せられた日において(土地区画整理法の施行期日を定める政令によれば昭和三十年四月一日)同法第三条第四項の規定により施行される土地区画整理事業となつたものであり、それまでに特別都市計画法の規定に基いてなされた処分手続その他の行為は、新法の規定によつてなされたものとみなされるのであるから、昭和三十一年一月十四日原告に送達された本件仮換地変更指定処分は土地区画整理法によつてなされたものと解すべきである。しからば右処分に不服のある者は同法第百二十七条により建設大臣に訴願することができるのであるから、右処分の違法を理由にその取消を求める本件訴は、行政事件訴訟特例法第二条の適用を受けるものであるところ、原告が右処分に対し昭和三十一年二月二十一日訴願を提起し、該訴願は同年二月二十九日受付られて建設大臣に進達せられたけれども、未だ裁決を経るに至つていないことは本件当事者間に争いのないところであるから本件訴は行政事件訴訟特例法第二条に違反した不適法な訴であるというべきである。

よつて本件訴は不適法としてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用したうえ主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 西川豊長 喜多佐久次)

(目録省略)

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